文化財の修理とは?

今日私たちが目にすることができるお仏像などは、何年も何人もの人に受け継がれ現代に伝わっています。
次の世代につないでいくために、今できる限りの技術で修理を行う必要があります。耐久性、可塑性ともに満たした材料を使用するなど、修理に係る技法は文化庁や修理技術者の間で研鑽され続けています。また、新しい技術や技法は、伝統的技法や材料を基本とした上に成り立つものです。
三乗堂では仏像をはじめ、木造彫刻の修理を主に行っています。
このページでは現在採用している修理の作業内容や材料などをご紹介します。

調査

  • 像が安置される現場で実際に修理対象を見ながら、形状・損傷状況を把握し記録します。
  • 像の大きさによっては、梱包方法、搬出入の経路や方法の検討を行います。
  • 修理は行わない、調査のみのご依頼も承ります。

燻蒸

像内に潜む害虫の駆除を行います。大きなお像の場合は専門の業者に処置を依頼します。

撮影

  • 三乗堂工房へ搬出後、修理を始める前に現状を写真に収めます。
  • 基本的にお仏像本体は、正面・背面・右側・左側・底面・上面を撮影します。

赤外線撮影

  • 肉眼では見えにくい墨書や彩色を特殊なカメラで撮影することもあります。

クリーニング(乾式・湿式)

  • 乾式クリーニング
    刷毛などを使用し、堆積した汚れを除去します。
  • 湿式クリーニング
    エタノールと精製水などを用いて、固着した汚れを除去します。綿棒で少しずつ丁寧に処置します。

膠湿布

  • 彩色に固着した汚れを吸着させるため、薄い膠水を含ませた脱脂綿で湿布します。
  • 経年で膠が弱り、剥落しそうな彩色層を再度定着させる効果も期待できます。

剥落どめ

  • 木地から浮き上がってしまった漆や彩色層の隙間に膠や薬品を注入し、接着させます。
  • 時代を経てきたお像の雰囲気を変えないような修理を可能にします。

含浸強化・ 虫穴埋め

  • 虫損や腐朽などによって脆くなった部分に薬剤を浸透させ、強化させます。
  • 表面に薬剤を塗布するか注射器やコーンで注入します。
  • 虫穴には、砥粉と薬剤を混合した液剤を注入します。

解体

  • 現状から判断し、必要に応じて行います。緩んだ矧ぎ目などを丁寧に解体し、古い接着剤などを除去します。
  • 適当でない後補材などは撤去する場合もあります。
  • 各部の修理・処置が完了したあと、再度自然に見える形で組上げます。

鉄釘・鎹の除去 → 埋木

  • 現状から判断し、必要に応じて行います。鉄釘の錆は木材の劣化を促すので、錆を含めて釘や鎹を除去します。
  • 鉄釘・鎹を取り去った後は埋木をし、表面を対象の形に合わせて整えます。
  • 再度釘の打ち付けが必要な場合、釘の材質から施主様と協議の上、処置します。

補作・ 新補

  • 失われた箇所で、尊容を損なっているなど、必要な場合は新しく作ります。本躰だけでなく、光背や台座などの附帯物を新調することもあります。
  • 後補の部材が像の尊容を損ねていると判断した場合は、部材の取り替えを検討します。
  • 構造強化のため、補強材を取り付ける場合もあります。

補作・組付け

  • 取り外し解体した各部材を改めて組み上げます。新補材・補強材を制作しながら処置することもあります。
  • 接合方法は、構造を吟味し最適の方法を検討します。

木屎漆・錆漆

  • 木屎漆・錆漆は仕上げの前に土台を整えるための作業です。
  • 木屎漆
    木地の隙・欠け・割れを整形する時に用います。硬化後、刃物で削り表面を滑らかにします。
  • 錆漆
    木地制作後、彩色の下地、箔押しの下地として塗布し、硬化後表面を滑らかに研ぎます。

仕上げ(漆箔)

  • 新しく手を加えた箇所( 新補部分) や、尊容を大きく損ねている箇所には、周囲に合わせて箔押しを行います。
  • 箔押し後、古色づけを行います。

仕上げ(彩色)

  • 新しく手を加えた箇所( 新補部分) や、尊容を大きく損ねている箇所には、周囲に合わせて補彩を行います。
  • 絵具の種類は、もともと使用されている材料と同一か、近いものを使用します。

修理後撮影 → 完成

  • 修理を終えた後に、修理前と同じ条件で撮影を行います。
  • 修理の記録を記載した修理報告書をお渡しします。